えーと。いえ私の方

「えーと。いえ私の方から伺います。今からでも宜しいでしょうか」「今からですか? ああ、大丈夫です。今日は二時頃までは事務所にいる予定ですから」結局のところ、俺は夕方には二十万円の現金を懐に入れていた。今回の仕事は簡単である。後は西田知恵に電話すれば良かった。

 彼女の性格からして不倫の相手など嫌がるに違いない。だが、俺の口からそんな事を聴くと彼女はどんな反応をするのか、それが俺の気を重くしている原因のひとつである。携帯電話を左手に持って、右手でボタンを操作する。後は最後のボタンを押すだけだ。

 一瞬、躊躇ったが、ボタンを押して携帯電話を右手に持ち替えた。そのまま耳に当てしばらく待つ。少しの間、呼び出し音が聞こえた。「久しぶりね、清。あなた元気に暮らしているの」約三ヶ月ぶりに聞く彼女の声だ。もっと嫌がる声をすると思っていたのだが、それほどでもなかった。

 「ああ、おかげさまで何とかメシだけは食っているよ」「ところで何の用。あなたから私に何かの用事があるから電話を掛けてきた。と私は思いたいのだけど」知恵独特の変わった言い回しだ。「ああ、今日は俺の仕事の話でね」…あなたの仕事に続く。